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日本食糧新聞
月刊「食品工場長」118号より
食の安全・安心といわれて久しい。ちまたには「安全・安心」をうたい文句にした食品が散在、これをキーワードにしたビジネスも多数登場し、「食市場」で成長のカテゴリーとなっている。
その典型例が「使っていない」ことを強調した「無添加」「無農薬」などの不使用表示。中でも「~でない」というストレートな表現が印象的な「遺伝子組み換え食品表示」は代表例だろう。「消費者の安全・安心ニーズに応えるため」というが、本当に消費者ニーズと合っているのか?
05年も同様の調査を実施したが(06年2月号参照)、20歳以上の女性1000人(生協会員500人、非会員500人)のアンケート調査から、消費者ニーズの本質に迫ってみた。加えて、現場の表示に対する意識を探るため、生協と豆腐メーカーの「表示の取り組み」について調査した結果を一部紹介する。
★不使用表示では「食品添加物」「遺伝子組み換え」を意識
「○○は使っていません」「○○でない」「無○○」「○○不使用」「非○○」「ノン○○」の食品表示を「見たことがある」回答者のうち、商品を選ぶ際に意識したことがある表示は(複数回答形式)、「食品添加物」がトップ、次いで「遺伝子組み換え」となっており、昨年同様、生活者の間で強く意識されている結果となった(図1)。また、非会員に比べ、生協会員での表示に関する意識が全体的に高い。
「食品添加物」「遺伝子組み換え」の2表示に関しては、メディアの取り上げ方からも「マイナスイメージ」が先行しており、食品選びの関心度合いも高いといえる。
★消費者理解と表示の深いギャップ
現状、食品表示の基準としては、「遺伝子組み換え原料は使っていません」(遺伝子組み換えではない)といった表示があっても、分別措置さえとっていれば5%まで遺伝子組み換え原料が含まれていてもよいことになっている。この事実は「伝わっていない」であろう、というのが昨年調査実施前の仮説であった。事実、この表示の正確な意味を95%の回答者が「知らない」としていた(図2)。今年の調査でも昨年と比率はほとんど変わっておらず、周知が進んでいない状況がうかがえた。
「消費者の安全・安心ニーズに応えるため」というのが、不使用表示をする食品メーカーの説明だが、「入っていない」という無のイメージがもたらす「見えない安心感」は、「入っている」方への意識を希薄にし、消費者が実態を知り、自ら判断・選択する機会を逆に奪っているという問題が見えてくる。
この問題が1年経って全く改善されていないという状況は、ある意味国の怠慢といえ、業界が強く感じてほしい課題である。
★生協における「表示」実態
今回、C-NEWSの生活者調査とは別に、弊社調査で06年4月から5月にかけて、遺伝子組み換えに関する表示を積極的に導入している生協を対象に、「遺伝子組み換えでない」「遺伝子組み換え原料は使っておりません」などの表示(以下、不使用表示)の取り扱いや今後の意向などを聞いてみた(回答母数52)。
その結果、不使用表示の中止をしているところはわずかだったものの、全体の約半数(48%)が「優良誤認(実際のものよりも著しく優良であると消費者が誤認する表示)」や、他社よりも著しく優良であると消費者が誤認する表示、「100%保証できない」など、表示の信頼性という観点から、すでに不使用表示の中止や変更への意向を示していることが分かった。
★メーカーの新たな取り組み
ある豆腐メーカーでは、一部商品の不使用表示を取りやめた例がある。理由は、消費者から不使用表示の混入比率について何回か問い合わせがあり、現在、食品表示の基準としては、「遺伝子組み換え原料は使っていません」(遺伝子組み換えではない)といった表示があっても、分別措置さえとっていれば5%まで遺伝子組み換え原料が含まれていてもよいことになっている事実を説明したところ、「適切ではない」「誤解する」といった指摘を受けたからだという(図3)。豆腐業界では珍しい試みだが、こうした消費者側の立場に立った取り組みをしている例も出始めているようだ。
表示の中止や変更理由には、優良誤認などのほか、遺伝子組み換え作物の栽培面積の増加から「遺伝子組み換えでない原料調達が困難になった」などもあり、これらをすべて合わせると、現段階ですでに不使用表示を「取りやめた」は17・9%、「内容を変更した」は13・9%で、全体の約3割が何らかの措置を講じていた。
また今後についても「取りやめを検討する」「見直しを検討する」「検討の必要性を感じる」など、約7割(68%)が、生活者の理解を求めるべく、改善に向けて何らかの取り組みの必要性や考えを示している。このうち6割は「優良誤認」や「100%保証できない」など表示の信頼性の問題を指摘しており、不使用表示を見直す機運も芽生えているようだ。
★選ぶのは消費者の権利
「消費者ニーズ」とよくいうが、これは誰が作り出したものだろう。「組み換えは絶対に売れない」がもはや業界の定説となった感があるが、今回の調査では、「どのような特徴があっても買いたいとは思わない」が全体の3分の1で、それ以外の消費者は、安全性、環境、健康に貢献できるようなものを中心に、その特性によっては遺伝子組み換え食品を「買ってみたい」と回答した(図4)。これは業界常識からすると、意外な消費者像といえるであろう。
昨年も指摘したが、「事実は事実として正確に伝え、選択の権利は消費者に」──それが現在、食品業界が消費者に果たすべき責任といえるだろう。((株)インフォプラント
C・NEWS編集室マーケティング責任者
境野智樹氏)
以上